エッチはだまされない
いわゆるアダルト物のCD-ROMを作る羽目になってしまった。それで、そういうCD-ROMを試作品も含めてあれこれ見たり、その業界の人と「オ×ニーして」と”ピー”状態で会話しているこのごろだ。

「エッチなインターフェースとは何だろう」仕事を受けてから頭の中はそればかりだ。受け取ったQuickTimeのビデオ素材は、それはもう股間にヒートシンクをのっけたくらいじゃ爆発しそうな本番物で、840AVなんて冗談も通じないハイパワーだ。QuickTimeムービーよりもレンタルビデオで300円で借りたほうが画質も迫力もだんぜんいいのがわかっているのに、それを12,000円のCD-ROMにしてしまおうというのだ。

「エッチなクリックってあるかな」「横方向より縦方向のドラッグがいいな」「ちょっと疲れるくらいがいいかもね」「目的は1つなんだから、面倒なのはだめだ」「マウスを操作すると右手が使えないね」「エッチなマウスの使い方って」「なめるとか」「繰り返してるとハイになるでしょ」「いわゆるマルチメディアなパネルが冷めてるんだ」「ビデオより写真の方がヌキやすいって聞くんだけど」「矢印ボタンもだめだな」「バイブってのは」

デザイナーと話したり自問自答したりしているうちに、エッチというのはインタラクティブとかインターフェースというものを検証するのに非常に適しているということに気付いた。マルチメディアタイトルと呼んでしまうとごまかされそうなことも、エッチだとそのインターフェースがいいか悪いかが直感的にわかってしまう。いくらコンセプトが斬新で、プログラムが高度であっても、「イケない」「ヌケない」と言われれば、インタラクティブもくそもない。エッチはだまされないのだ。

エッチはQuickTimeムービーについても問題をわかりやすく提示してくれる。アダルトムービーで見るものは結局は裸とSEX。圧縮が適当でないと肌がきれいに見えない。せっかくのGカップも圧縮されるわけだ。腰や手の動きもカクカクじゃ、まるでロボッコップのSEXになってしまう。

AV業界はともかくドンドン作ってしまう思い切りのよさがあるようだ。ああだこうだ調査だけして結局何も作らない業界とは大違いだ。だから習熟も速く、ビデオの2次利用という段階はもう終えようとしている。大方がデジタルテレビ、双方向CATVなどという活字に踊らされている間に、この業界は実践としてビデオではないエッチ、デジタルエロスを模索して、CD-ROMのための脚本作り、特殊撮影、デジタル編集を行ないはじめているのだ。

AV業界はそれを手柄にしないだろうけど、ヒューマンインターフェースデザインやインララクティブビデオのアイデアは、エッチが濃厚に遠慮なく開発していくことだろう。


ASCII MacPower 1994.1月号掲載
Go To: ESSAY Index - 1994