猫の生活

午前9時56分。下の階で寝ていた猫が上がってきて、机の上に飛び乗った。キーボードの横に座り込む。

「今、お前のこと書こうと思ってたんだ」

うちの猫はきっちり2時間おきに食事をとる。彼女(メスなんです)の1日は、早朝4時の食事からはじまる。それから2時間間隔の食事。今まさにおねだりしているのは今日の3回目のお食事タイム。そんな面倒なことせずにお皿に1日分を盛ってあげれば適当に食べると思うでしょ。ところがシャミ(という名前なんです)はそれをいっぺんに食べてしまうのだ。食べすぎて吐くか、食べ残すともうそれを食べない。そして、食べるだけ食べて太る。と彼女を相手にせず原稿を書いていると手で催促された。これを無視するとマウスを持つ手の上に座り、次にぼくとキーボードの間に座り、しまいにそこに寝る。わかりました。食事にしましょう。ちょっと中断。・・・

さてと。彼女は食事が終わると満足して全身をグルーミングし、お昼寝になる。猫は家の中で一番涼しい場所、または、一番あったかい場所、要するに一番快適な場所を知っているという。確かにそのための探究心はすばらしい。家のありとあらゆる場所をちゃんとチェックしている。新しいダンボール箱の中だって見逃さない。暑かった8月の快適ベスト3は、ダイニングのテーブルの下、2階の階段を上がり切ったところ、冷蔵庫の扉の前のようだった。

ぼくもお昼寝をする。ベットに倒れ込むように寝てしまうこともあれば、猫の横に行って寝ることもある(確かにそこは快適な場所)。彼女の寝顔を見てると「ボクも寝る」となってしまう。

こんな怠惰な生活というのをぼくは送っているわけだが、それもこれもフリーランスという特権である。日本の会社で「ちょっとお昼寝タイム」とはいかないだろう(公園や車の中でお昼寝という営業マンはけっこういるみたいだけど)。

でも、多くの人はお昼寝したいと思っているんじゃないの?お昼寝したいけどできない。その理由は、お昼寝できるほどヒマじゃない。お昼寝してたら上司にどやされて減俸だ。寝顔を他人に見られたくない。寝言がひどい。etc.

会社をやめない限り、自分にお昼寝付き人生はないと思っているでしょ。でもね、もしかするとそうでもない。どうしてぼくはお昼寝付きなのか。それは、電話とFAXとパソコンとモデムがあるからです。

新聞を開くと毎日しかも2、3箇所にインターネットという言葉を見る。マルチメディアの次のキーワードはインターネットに決まり。で、それでふたたび浮上してきたのが在宅勤務。かっこよく言えばネットワークを使ったコラボレーション環境である。まあ、用語はどうでもいいが、パソコンでTV会議ができそうな勢いだし、社内のことはメールで事を済ませてしまう会社も増えてきたようだ。こうなると、いよいよ次は在宅勤務でしょう。

となるとお昼寝である。今まで会社時間、9 to 5で働いていたサラリーマンはだいじょうぶか。会社だけではない。生まれてこのかた、時間割りのない生活なんて知らない人ばかり。夏休みだって時間割りを守っていたでしょ。でも、これからは自分で時間を制御できる人がエリートだ。寝坊よかろう。徹夜もよかろう。そしてお昼寝もOKだ。電話がかかってきても「今、お昼寝中」って堂々と答えられなければならないのだ。


ASCII MacPower 1994.11月号掲載
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