プロマウサー
僕の目下の趣味はサーフィン。サーフィンはいい。第1にカッコイイ。さらにいいのは、見た目の派手さと違って、実際には非常にストイックでメンタルであること。ボードの上に立つだけというシンプルなインターフェースであるにもかかわらず、実に奥が深い。なめてかかるとひどく潮を飲まされる。波の周期を読み、辛抱強く波を待つ。潮の満ち引きや風の向きに気を配る。夜更かしや深酒を控え、ダイエットもしなければならない。顔は日に焼け、身体も締まってくる。じっと待つことも覚える。波に巻かれてもパニックにならない。

サーフィンをやる人をうまいへたに関わらずサーファーと呼び、初心者サーファーは上級者サーファーを尊敬する。尊敬される上級者サーファーは初心者サーファーを心づかい、何よりも海を愛する。サーフィンが自分の人生だと言う。そう憧れる。

もう1つの長年の趣味はパソコン。パソコンはぼちぼち。第1にカッコ悪い。最近はデザイナーやアーチストが使うようになってカッコよさ度の平均値が上がってきたとはいえ、普通の人がパソコンが使えるようになってもその人のカッコよさ度は上がらないようだ。さらに悪いのは、見た目の難しさや理知的な印象と違って、実際には「バカでも使える」と言ってはばからないし、かと言ってあれこれ複雑怪奇なインターフェースを駆使しなければならないわりには結果はお粗末。つい夜更かしするし、座わりっぱなしなので腰が痛い。顔色は悪くなるし、目もシパシパだ。スクロールやファイル圧縮を待つことができず、システムエラーになると毎回絶望的になる。

パソコンを使う人をユーザー、上級ユーザーをパワーユーザーと呼ぶ。初心者ユーザーはいつも文句を言っていて、パワーユーザーは初心者ユーザーに辟易している。パソコンなんか蹴飛ばしてしまいたい。そういう気持ちを抑えることが何よりも大事だ。

サーファーをサーフボードユーザーとは呼ばない。何気ないことだが、ここに違いがある。「パソコンは所詮道具であって...」と言うが、そう言うことが、パソコンとユーザーを切り離してしまうことに気付いているのだろうか。だから、パソコンが人生にならない。尊敬されるパソコンユーザーも生まれない。

憧れのプロサーファーやプロサッカー選手は、「サーフィンが人生」「ボールは魂さ」とカッコよく言う。ならば、憧れのプロパソコンユーザーにもそうカッコよく決めて欲しい。「パソコンユーザー」という呼び方も改めよう。マウスを使うからマウサーとか。

プロマウサーは社会的にも尊敬され、収入もよく、もちろん厳しい目で評価される。プロマウサーはワークスチームと契約して新機種を神業で使いこなし、時にクラッシュして数億円、数GBを飛ばしてしまう。プロマウサーは子供たちの憧れになり、ジュニアマウサーが大きくなって、立派なプロマウサーになる。これがパソコン文化というものだ。


ASCII MacPower 1994.4月号掲載
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