日本野鳥の会神奈川支部主催「相模湾船上探鳥会」というのに行った。野鳥の会に会費を納め続けて10年以上になるが探鳥会に参加したのは初めて。だって十数人の人たちがみんないかにもって服装でゾロゾロ歩いて、一斉に鳥を見るなんてカッコ悪いじゃん。でも今回は船をチャーターして海鳥を見に行く企画。いつも上から眺めてる海、あの中に漁船に乗って行ってみたいとずっと思ってたの。
あ、探鳥会って別に野鳥の会の会員じゃなくても誰でも参加できるんですよ。
8時に平塚駅に集合だったんだけど、私達は平塚港の方が近いので直接港に行きたいのですがと、リーダーの方に電話する。連絡先になっている番号にかけると、かかった先は平塚博物館だった。それで月曜なのか。リーダーは博物館の学芸員の方で休日にボランティアでこういう催しをやってくださっているのだった。
自転車で平塚港の庄三郎丸という釣り船やさんまで行く。まだ誰も来てなかった。釣り客はすでに6時に港を出ている。釣り船やさんの中に入っていいものか、外でぼーっとしてるのも暑いしなあと思っていると、遠くからも一目で「野鳥の会の人たち」という一団がやって来た。
私達はリーダーの方とちょっと挨拶をした。みんなは釣り船やさんにつくやいなや中にズンズン入って行って四方を鋭く観察し、もらえるものはさっと取って3秒でリュックにしまった。魚の料理法のパンフレットとか「庄三郎丸」のシールとか。5分で酔い止めの薬とか水とか欲しいものを補給し、さっさとトイレもすませた。さすがだ。
野鳥の会の人たちの群れの中にいるという経験を初めてしたが、不思議な集団だった。普通人が30人も集団でいると大声でしゃべるひとがいたりするもんだけど、彼等は淡々として静か。といって陰気でもなく、なんつうか、集団ではあるが一人一人が独立してる感じ。
今日の催しの全体のリーダーは学芸員の方、もう何度も漁船に乗って鳥を調査したことがあるそうで、ここらの鳥に詳しい。あと、サブリーダーが二人。鳥担当の方と、魚・海洋ほ乳類担当の方。プラス平塚市の水産課の職員の人。この人は釣りバカ日誌の浜ちゃんに似ていた。漁業組合としてもゆくゆくはこのような観察船を定期的に出したいということだった。
庄三郎丸のおじさんから、海上で鳥や魚を見つけるコツを聞く。そのコツとは「肉眼で見える範囲だけを見るってことなんですよー」ということだった。庄三郎丸のおじさんは話し好きでしゃがれ声の面白い人だった。
釣り舟に乗るのは初めて。船の左右に別れて10人ぐらいずつ座る。今日ほど凪いでいる海は初めてだなあとリーダー。なんだか特大サイズのサーフボードに乗ってるみたい。ボディボードをはじめてから全く船に酔わなくなった。以前だったら小さな漁船に乗って海に出るなんて考えられなかっただろう。すぐゲロゲロゲーになっちゃって。今は全然平気。
まずは平塚沖の定置網の漁場へ。船の上で漁師さんたちが網の清掃をしていた。網についたフジツボ類をたたいて落とすんだって。あれ、全部手でやるのか、大変だなあ。鳥は海面に出た杭の上に、ウミネコ(成鳥と幼鳥)、アジサシ、コアジサシ。アジサシが止まって休んでいるところを見るのは初めてかも知れない。
大磯沖の定置網を経て、大磯の照が崎海岸へ。ここはアオバトが群れで来ることで有名。岸から見たことはあったけど、いつも逆光で黒っぽくしか見えなかった。海から見ると青黄緑の胴体に赤い羽がきれい。10羽ほどの群れが岩礁のあちこちをひらひらと移動してる。波がかかったばかりの岩に舞い降りて、次の波が来る前に飛び立つ。
本当は山にいるはずのアオバトたちが何でここにいるのか。一説では塩分を補給しに来てるともいう。このアオバトたちは丹沢山系から山伝いに湘南平を経てやって来るらしい。
鳥リーダーは「ああ、やっぱり岩礁の海側にいっぱいいるんだな」とつぶやく。アオバトはこわがりなんだ。陸側からより良く見えた。船が揺れるから双眼鏡でのぞくのは大変だったけど。
船首を返して猛スピードで沖に出て行く。今日はぼんやりかすんでいて、すぐに陸が見えなくなった。海面すれすれに飛んでいる鳥。カモメより羽のシルエットが細長い。「あれはオオミズナギドリです」飛んでるところを初めて見た。台風の後打ち上げられている死体は見たことあったけど。最初の2、3羽ですごく感動したけど、その後オオミズナギドリはどんどん数が増えていった。
船体の下からピーンと飛んで行く魚。「りっちゃん、トビウオだよ」と美幸さん。トビウオはスーパーではよく見るけど、ホントに飛ぶんだね。それもかなり長距離。うまいうまい!トビウオが飛ぶ度に私は手を叩いて喜んだ。途中で波に突っ込んでしまって失敗するのもいる。2、3匹大きいのが飛んだ後、半分ぐらいの小さいのも飛んだ。飛行距離も半分ぐらいでかわいい。魚リーダーによると大きいのが「ホントビウオ」で小さいのが「アリアケトビウオ」だそう。
10kmぐらい沖に出ると船のエンジンが止まった。海面が静かでなめらかだ。潮目といって潮の境目だそう。ペットボトルとかゴミが浮いている。いろんな物が集まってくるそうだ。海藻もたくさん浮かんでいる。これはホンダワラといって、魚が産卵するらしい。まわりを見回すと漁船があちこちにいる。
こういう潮目にはヒレアシシギがいることがあるんだけどなー。リーダーは残念そう。「前方にカツオがいるよ」と船長の声。ほんとだ!海面がバシャバシャしてる。「竿持ってくるんだった」と美幸さん。みんなそう思ったみたいで、「網出して、網」と笑う。今相模湾にはカツオがいっぱい入って来てるそうだ。
走っているうちにオオミズナギドリの群れ発見。船はそちらに向かう。見飽きて来たオオミズナギドリの、海面に浮かんでいる姿にまた感動。10mぐらいまで船が近付くと逃げて行くけど、浮かんでじっとしていてくれるので顔や背中がよく見えた。白っぽい顔に黒い目がかわいいんだね、君たち。飛び立つ時、バタバタと海面を走る後ろ姿もたくさん見れた。そこにもカツオの群れがバチャバチャいっていたがオオミズナギドリはカツオを直接は食べられないらしい。
そうこうしてるうち、オオミズナギドリたちがいっせいにある方向へ移動しはじめた。まっしぐらって感じ。その方を見ると、水平線が鳥だらけで盛り上がって見える。船は全速でその方へ走った。鳥と平行して走ったが鳥の方が速かった。「魚がいるんだな。鳥も食べられるチャンスはなかなかないので、いざとなればみんな必死に飛んで行くんです」とリーダー。
オオミズナギドリの固まりが見えて来た。すげえ、みんな羽をたてて水に顔をつっこんですごい騒ぎ。「ああ、食ってる食ってる」「うわー」全員興奮。「海面に浮かんで休んでる時は羽を畳んでいるけど、食事中は羽を立てているんですよ」とリーダー。鳥リーダーによると500羽以上いるらしい。
下を見るとグルグル渦巻いているイワシの固まりがいくつも。はがれたウロコで海水が銀色のスパンコールに。これをイワシ団子というそうだ。イワシ団子はだんだん船の方に寄ってくる。鳥から逃れたいのか。鳥だって必死だから漁船がなんのその、すぐ近くまで来てガツガツ餌を摂るところを存分に見せてくれた。みんながわーっとその方へ移動したので船が左に傾いてしまった。
船長によると、カツオの群れに追われたイワシの群れが海面まで上がって来た状態だそうだ。鳥にとっちゃ食べ放題、大出血サービスの食堂だったわけですね。やっぱり船をチャーターするっていいな、釧路航路や三宅航路でもオオミズナギドリは見れるそうだけど、こうやって鳥の群れがいる現場めがけて急行してくれるのはありがたい。
船が走っている途中で、大きな魚が回転しながら高く跳ねて全体のシルエットがくっきり見えた。一瞬のことで私達は「アアー!なんか跳ねた」としかわからなかった。船長によるとそれはサメ、体長1メートルだったそう。
魚リーダーによると、サメは軟骨魚類で(?)筋肉が発達しているので、あんまりないことだけど、それくらい跳ぶのは可能だそう。けど何のために跳んだんだろう。ムシャクシャしてたのかな。
船は陸の方へ帰って行く。しばらく走ると茅ヶ崎の烏帽子岩のシルエットがぼんやり見えて来た。烏帽子岩は烏帽子型の岩がぽつんとあるわけじゃない。満潮でも沈まない、かなり広い岩礁が周りにある。一つの岩礁にウミネコとアジサシとコアジサシがいた。「メダイチドリもいますね」よくわかるなあ。
「チュウシャクシギ」もいますね。え?どこどこ?一生懸命双眼鏡を覗いていると、何かが海面からヌーと出て来た。「わーびっくりした!」私とおなじく隣で必死に双眼鏡を覗いていた若い女の子が同時に声を上げた。そしてお互い見合って笑った。出て来たのはダイバーだった。最初後ろ頭で、ゆっくりこっちを見た。彼もびっくりしただろう。このかわった集団の船を見て、いや、見られて。「別に怪しいものじゃありません」「いや充分あやしい」私と彼女は笑い転げた。
茅ヶ崎から平塚港へ帰る途中、海からうちのマンションが見えた。お昼過ぎ、無事港につくと、ちょうど釣り客を乗せた船も着いたところで、カツオが入ったクーラーボックスを持ったひとが「毎日カツオばっかでやんなっちゃうよー」と言っていた。
リーダーによる簡単なまとめ。オオミズナギドリの集団の食事風景はなかなか見られないことでした。みなさん運がいいですよ。(ほんとか?)また季節を変えてやりますのでぜひ参加してくださいね。(はーい)
鳥リーダーによる「鳥合わせ」というのがあって、今日見れた鳥のリストを確認。魚リーダーによる、今日見れた魚の解説。船の左側にいた人はダツが跳ねたのが見れたらしい。今黒潮がかなり沿岸に寄っているので、水温が高くて海獣類は中々見れないそうだ。いることもあるらしいんだけど。水産課の人による漁港のおすすめ食堂リスト。浅八丸食堂の浅八定食がおいしいらしい。
解散後、浅八丸食堂に向かった。入口に貼り出してあった今日のおすすめに「カツオの刺身定食」を見ると、無性にカツオが食べたくなった。さっきさんざん見たからかな。単純なんです。ビールのおつまみに出た、シラスをしょうがとお醤油で煮たのもおいしかった。私達がカツオの刺身を食べていると、後からみんなが入って来て、水産課の人は「オ、仇を打ってますね」と笑った。
仕事が重なって疲れていたところに、朝6時に起きて漁船に乗るという信じられないことをやったせいか、帰ってから熱が出た。薬を飲んで午後から翌朝までずっと眠って、復活。久しぶりに料理をするためにスーパーに買い物に行った。不思議なことにカツオはなかった。カツオはどこに出荷されているのだろう。
「庄三郎丸」でもらった魚の料理法のパンフレットはなかなか充実していた。季節の魚の美味しい食べ方を、庄三郎丸の常連にして割烹のオーナーがイラストで解説してくれている。イナダの中華風刺身、子供も食べやすいギョロッケ(魚のコロッケ)、タルタルソース焼き。こんなに釣って来てどうすんのよ、もう魚は飽き飽きよ!と言われないメニューがそろっている。こんどいつかこれらを作ってみようと思った。