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2010年9月24日

孤高の人(下)読了

下巻は山を下るために登るような、登った高さよりもさらに下るようなそんな印象だった。結末は上巻の出だしに書いてある。それだけに降り方が難しかった。

上巻は主人公加藤文太郎の超人的な山歩きが軽快で爽快で、驚きもあって楽しかった。自分にはまず必要のない知識なのに、雪山で雪洞を作りビバークするようすや両ポケットに入れておく行動食などにいちいちメモするように情景を飲み込んだ。単独登山の加藤をガイドに頼み山を登るようで、しかも自分はぬくぬくとして、読み進むごとに力をつけたような錯覚があった。雪山の凍える寒ささえもうらやましく思えた。

しかし下巻は足が重くなった。加藤に付いてどの山に登っても楽しさが沸いてこなかった。どれも辛い山行きばかりに見えた。ページの残り具合からという判断から、この山は無事に制覇するだろうと思っても楽にならない。下巻がもつ重苦しさは加藤より、湿った雪のように加藤の回りにまとわりつく出来事から来ていた。体温で解けて衣服に染み入ってくる冷たさのように少しずつ黒ずんでいた。

そして最期がくる。下巻の最初からそこに向かって進んでいるのがいやでも伝わる。ページが残り少なくなると逆にすっぱりと最期が訪れることを祈ったが、いやもしかするとこのまま生還できるのでは、加藤が諦めていないのになぜ自分がここで諦めるのだと叱咤されながら残りページを減らした。

なぜこうなったのか、その理由が要因が穴の空いたポケットから落ちるように随所に点々と置かれていた。その跡を振り返るとそれを取りに帰れないところまで来ていることを悔いた。読みながら加藤と同じだけ悔いた。幻聴と幻視がせめてもの救いという非情な優しさを装って終わった。


次は「槍ヶ岳開山」これも新田次郎の作品。

投稿者 oshige : 2010年9月24日 18:49