関東3大奇祭のひとつ。茅ヶ崎に引っ越してから、地元のお祭りで浜降祭というのがあるのは知っていた。毎年7月になると商店街では浜降祭セールというのがあるし、どこからともなくピーヒャラドンドコ音がするし。でもその祭りの実態を知るには数年かかった。
1年目、今日は浜降祭の日だ。有名なお祭りらしいから絶対見るぞー!あれ?でもどこでやってるの?終わり。
2年目、今日は浜降祭の日だ。どうやら海であるらしい。来たぞー。あれ?何もないみたい。ほんとに海であんの?終わり。
3年目、今日は浜降祭の日だ。わーははは、早朝なんだって。どうりで昼間どこでもなんにもやってないわけだわ。8時頃起きて自転車で海に行く。すると白装束の人たちがげっそりした顔でぞろぞろ戻って来てる。もう終わってるー。海で何があったの?小型トラックの荷台に子供が乗せられて太鼓叩かされてる。
4年目、今日は浜降祭の日だ。今年は早く起きた。5時だもん。自転車で海に行く。途中、目をまわして倒れてる人が道ばたにごろごろいる。どうしたの?一体。西浜に着くとすごい人!みんなお祭りの衣装。普段着の人の方が少ない。それに集結してるお神輿の数がただもんじゃない。小さいけど三十個ぐらいある。スピーカーでそれぞれの神社の由来を説明してる。茅ヶ崎ってちいさい神社がいっぱいある。なんでだろうと思っていた。このお祭りのためかもしれない。(そんなわけないか)
波打ち際で殺気立った気配がする。何してるんだろう、えーっお神輿かついで水浴びしてるよ!溺れないのかな。っつーか、お神輿が痛まないのかしら。隣に立ってるおじいさんは「今年はよく入ってる」と満足げだ。「そうねえ、ここんとこちょっとしか水に浸からなくてつまんなかったのよね」とおばあさん。
5年目、今日は浜降祭の日だ。今年は眠らなかった。未明から茅ヶ崎中の神社からお神輿が海に向かって出発するらしい。午前3時、家から一番近い神社に行ってみると、すでにもぬけの殻、しまったあ、自転車を飛ばして次に近い神社に行くと、そこも誰もいない。さらに必死にペダルを漕いでいると、私の前を同じく必死で自転車を飛ばす人がいる。もしかしてこの人も同じ目的なのでは?と考えた私はその人の後について行った。茅ヶ崎の迷路のような道をスイスイ走る。と、その人は橋のたもとに自転車をとめると三脚をセットした。へ?と見ているとそこへちょうど別の神社を出たお神輿がやって来た。その人はビデオ屋さんだった。そのあとずっとビデオ屋さんについて行ってビューポイントを効率よく見てしまった。
お祭りの衣装をつけた人たちは何かにとりつかれてるみたい。よその世界から来たひとみたいだった。その中に、いつも行くコンビニで働いてるお姉さんを見つけた。全然別人だ。正体見たり。ふだんは世を忍ぶ仮の姿だけど、ほんとは・・・なんだろう、わかんないけど。海に着くと疲れたのでもう帰ることにした。帰り道、荷台にお神輿と祭り装束の人たちがわんさか乗っているでっかいトラックとすれ違った。遠くの神社のお神輿がショートカットしたんだろうか。
6年目、今年は西浜の正面のマンションに引っ越した。この部屋からは恐れ多くもお神輿たちを見おろせるのだ。でも私は去年見れなかった鶴峰神社のお発ちが見たかった。鶴峰神社には絶対人が渡るのは無理な角度の太鼓橋がある。それは浜降祭のときお神輿が渡るためにあるらしい。そしてそこを越えるには特別な技術があるらしいのだ。高校時代の友達で神社マニアのヒラジも泊まりがけで見に来てる。昼間、祭り装束のおじさんたちが、早くも道ばたで車座に座り込んで一杯やっていた。
私達は午前2時半、自転車で15分ほどの鶴峰神社まで行った。灯明がいくつも点り、境内は祭り装束の人でびっしり埋まっている。ふだんは閑散としている、お正月の時でさえ寂しい感じの鶴峰神社がこんな空間になるなんて。鶴峰神社のお神輿、両脇に他の地区から合流したお神輿2基。3時になるとかけ声と共にお神輿がゆっくり持ち上げられた。ウオーという声が、境内をおおっている木々に反射する。すっげーかっこいい。背筋がゾクゾクした。で、肝心の太鼓橋だけど、とっても大変そうだったんだけど、素人目にはどこが特別な技術なのかわからなかった。ただ気合いで渡してるとしか思えなかった。
人とお神輿で埋まっている海までの参道の裏道を自転車で次の神社に向かう。お神輿は内陸の神社が先に出て、海に近い神社が順次合流して行くのだ。空が白々と明けてくる頃、一旦家に戻った。家の真下の県立西浜駐車場に次々と貸し切りの神奈中バスが入って来て、祭り装束の人たちが吐き出される。バスは少しの隙間もあけないできっちり停まっていく。その技術を真上から見れて楽しかった。お神輿もトラックで運ばれてくる。昔は遠くの神社から歩いて来たのかも知れない。でも今は途中は車で運ぶみたい。
7時に別の友達、あやさん一家と待ち合わせていた。でも、もう眠気と疲れでふらふら。そうねえ、徹夜で、お神酒をいただいて、重いお神輿をかついだら、海に着く前にぶったおれるやつが出るかも知れない。みんなで禊ぎを見に海際まで行ったけど、雨がふって来たのでうちに避難。そうして浜降祭は終わった。
さて、今年。数日前、海への参道にしめ縄がはられた。祭りは7月20日早朝。見どころは茅ヶ崎西浜。県立西浜駐車場は午前3時から9時まで関係車両の貸し切り。あやさん一家によると、国道134号線西浜~柳島間は、路肩に駐車する車で、また西浜駐車場前の信号をお神輿が渡るので、大渋滞だったそう。このお祭りは見るのが非常に難しい。地元の人の家に泊まるといいでしょう。うちとか。
当日は朝5時より10分おきに、茅ヶ崎駅南口から会場までの臨時バスが出ます。