シャミにはペットがいる。今は3代目だ。初代はサメのぬいぐるみ、その名も「シャメ」。シャミが来る前から家にあった私のお気に入りだったが、いつの間にかシャミの物になった。しっぽのくびれがくわえて運ぶのにちょうどいいらしく、得意げにあちこち連れて回っては一緒に寝たりグルーミングしてやったりしてた。

家に来たお客さんのなかでシャミが一番お気に入りだったのは「るみちゃん」だった。るみちゃんが一人でリビングに座ってファミコンで遊んでると、シャミがシャメをくわえて来て、るみちゃんの正面に座り、ポト、とシャメを置いてるみちゃんのことをマジマジと見上げた。そのままジーっとシャメを間に挟んでるみちゃんのそばにいて、るみちゃんを見ていた。後にも先にも初めて家に来た人にこんなことをしたことはなかった。

シャミはシャメで遊んでもらうのが大好きだった。一番好きだったのは階段の上からポンと放ってもらったシャメをダッシュで追い掛けること。音速で階段をかけおりた。(引っ越す時階段に爪あとがいっぱい残ってて非常にヤバかった)そしてシャメをくわえてまた2階に戻ってきてた。放り方にも好みがあるらしく、わたしが放ったのでは燃えないらしかった。ので、シャメを放るのは美幸さんの係りだった。その頃シャミは超肥満で獣医さんから「このままだと後3年で死ぬ」と宣告されていたから、ダイエットのためにシャミがもういいと言うまで(つまりバタっと倒れて何にも反応しなくなるまで)遊んでやった。

子猫の頃はそうやってこっちが「たのむ、もうおしまいにしてくれ」というまで遊びたがったが、だんだん成長すると放ったシャメをくわえては来なくなった。(よしよし、それが本来の猫の姿だ)でも自分だけ戻ってきては目を爛々とさせて「もっと遊んで」というので、美幸さんはシャメのしっぽのくびれに長ーいヒモをつけた。それでシャミは駆け降りるだけでなく駆け上がることもできるようになった。でもシャミから子猫らしさがなくなって、大人の美しい猫になるころ、そんな遊びはしなくなった。

2代目はイヌチャン。これも元々はわたしのお気に入りのぬいぐるみだった。別に「ほれ、これで遊びなさい」なんて言ったことないのに、いつのまにかベッドに置いてあったイヌチャンの首根っこをくわえてあちこち連れまわしてた。イヌチャンにも遊び方があった。イヌチャンの首に猫用のリードをつけてお散歩させるのを、シャミが追い掛けるというものだ。シャミはすごい速さで追っかけたがるがこっちはそんなに速く走れないので、部屋のまん中に立ってグルグル振り回すことにした。シャミはもうバターになっちゃうんじゃないかと思うぐらい狂ったように走っていた。

冬の間はカーペットを敷いてあったのでよかったが、夏になってフローリングむきだしになると爪がかからなくなって床の上をすべってしまって不満そうだった(大家さんすみませんでした)。それで庭の草の上でグルグル走り回らせた。そのころうちには通い猫たちがいてシャミと仲が良かった。そいつらも一緒にとドドドっと庭を走り回った。たぶん猫のみならず遊ばせてるわたしたちも楽しそうな顔をしていたにちがいない。

シャメもイヌチャンも何度も洗ってほころびを繕ったがもう修復できない程ボロボロになってしまった。ファミレスに行った時レジの横にイヌチャンにそっくりなぬいぐるみがあったのでそれを買って、初代と2代目は引退してもらった。

シャミも熟年になってたまにしか遊ばなくなったが、今でもさみしいとき、シャミは3代目イヌチャンをくわえて鳴きながら家中をうろつく。二人とも外出して帰ってくると、玄関のマットの上にイヌチャンがおいてある。鳴きながらイヌチャンをなめて眠ったんだろう。イヌチャンの毛はいつもシャミのだ液で櫛の目に固まっている。

99/06/01