ある夕方、ゴミ捨て場の前を通ると「鼻水がズーズーいう音」がいた。それが生きている証は鼻水がズーズーいう音だけだった。私は鼻水がズーズーいう音と10分以上じっと向き合った。うちは借家なので、生き物と関わるのは用心しなければならなかった。

次の日の朝「鼻水がズーズーいう音」は前日と全く同じ場所にいた。私は「鼻水がズーズーいう音」を片手ですくい上げてうちに連れて帰った。

栄養をあたえてあったかくして鼻水はおさまった。じぶんで顔を洗う気力が戻ると目がパッチリしていることに気付いた。覗き込むと明るいブルーだった。わたしは実家に残してきた猫をおもいだした。

体力がもどったらまた野原に戻すつもりだった。「それ」は軒下においたダンボールの中にいたが、わたしの姿をみると飛び出てついてまわるようになった。抱きあげるとわたしの胸で眠った。

あるとき、「それ」はお隣の人をわたしと間違えて鳴きながらかけよって行った。「あら、かわいいわ」。わたしはあわてて「すいません」と追いかけて抱き上げた。「おたくのネコちゃんですか?」「はい」そのときから「それ」はうちの猫になった。

「じゃあ名前をきめなきゃな」「クシャミばっかしてるからシャミだな」。言葉のプロとして商品のネーミングの仕事もしていたこともある夫によって「それ」は「シャミ」と命名された。けして三味線のシャミではないよ。

92/08/15


こっち来ちゃダメえ、ピントがあわないでしょー

つづく