電話がかかってくる
トゥルルルル。
『もしもし、ビデオですけど』
「ビデオ?どこの」
『リビングのビデオです。昨夜のお帰りが遅かったので今日電話しました』
「あそう。どうした?」
『昨夜のドラマの予約録画ですけど、来週も録画しますか?』
「そうね・・。いや、来週はいいよ」
『わかりました』

トゥルルルル
『あのう、たびたびすみません』
「うん?どうした」
『テープの残りが30分ありますが、巻き戻しておきますか?』
「あー、うん。後で見るから」
『かしこまりました』

トゥルルルル。
『インターフォンです』
「ん?誰か来たかい?」
『いえ、今日の午前中に宅配便が参りました。携帯電話をお呼びしたのですが、通じませんでしたので持ち帰っていただきました』
「あそう。じゃあ、土曜日の午前中に配達するように電話しておいて」
『かしこまりました』

トゥルルルル。
『おはようございます。まもなく8時です』
「あ、わかった。どうもありがとう」
『昨日、お留守の間に電話が3本ありました。まだ、お聞きになってないようですけど』
「誰から?」
『はい。東山さま、麗子さま、坂上さまです。麗子さまからは電子メールでいただいてます。メッセージを再生いたしましょうか』
「麗子が、何だって?」
『そちらのテレビに表示しますか?』
「いや、読んでくれないか。似てないんだから、声真似しなくていいぞ」

トゥルルルル。
『もしもし、テレビですけど』
「どこのテレビ?」
『リビングのテレビです』
「なんだ、今君を見ているじゃないか。なんで直接言わないの」
『はい。ビデオを熱心にご覧になっているようでしたので電話にしました』
「どうかしたの」
『お楽しみのところですが、あと5分でいつもご覧になっている番組が始まります』
「あっ!忘れてたよ。どうもありがとう」
『それでは、番組が始まりましたらビデオから切り替えます』

トゥルルルル。
『もしもし、電話ですけど』
「なんだ、電話か。何か用かい?」
『このたび、システム7.5Jがリリースされましたことをご案内いたします。システム7.5Jでは、声紋識別による盗聴防止スクランブルが可能になりました。また、未対応でした書斎のPPC型水槽と電話できるようになります』
「ふーん。じゃあ、バージョンアップしちゃおうかなあ」
『ありがとうございます。さっそくシステムをダウンロードさせていただきます。より快適なサービスを保証いたします』

ピンポーン。
「よお、よく帰ってるってわかったな」
「うん。あなたんちのオートロックに頼んでおいたの。あなたが帰ったら電話してねって」
「そうか」
「酢豚作るわね。足りないものは買ってきたから。さっき冷蔵庫に電話して何があるか聞いといたの」

ピロロロロ、ピロロロロ。
「あっあ〜ん」
「んだよ。いいときに」
「出なくていいわよ」
ピロロロロ、ピロロロロ、ピロロロロ。
「はい。どちらさまですか?」
『すみません。冷蔵庫です』
「ったく!内線を使えって何度言ったらわかるんだ!冷蔵庫が何の用だ」
『あのう、ドアがちゃんと閉まってないんですが・・・』


ASCII MacPower 1995.2月号掲載
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