ボクには彼がそこに座ってるってことしかわからないんだ
ネットワークに接続する度に、ぼくという人間がネットワークに潜るのがわかる。

インターネットのようにネットワークがグローバルレベルになれば、ネットへの接続と同時に自分という人間が世界に対して「開いた」という錯覚を覚えるに違いない。

「今までの自分は鎖国の時代だったんだ、これから開国だ」

と強く受けとめる人も少なからずいるだろう。

しかし、メールを交換し、ホームページをブラウジングしているある日、あなたはハッと気付くに違いない。

「このネットワークの下に何かある」

自分が毎日自由に渡り歩いているネットワークの道はいわば表の道。雑誌で紹介されたホームページ、そのホームページからリンクした別のホームページ、さらにそのホームページとリンクしたホームページ、その数があまりに多くて見失ってしまうが、それらはすべて表の情報。お釈迦様の掌の上をぐるぐる回っているようなもんだ。

自分のホームページをもてばすぐに理解できることだが、公開しないホームページを作るのは造作もないことである。というより、個人のホームページなんて自分で努力して触れ込まなければ誰も知らないままだ。

世界のどこからでもアクセスできるのに、世界の誰にも知られていないホームページ。そんな無数のホームページを想像することはたやすい。

表向きのホームページと一部の人しか存在を知らないホームページ。限られたホームページだけがリンクしていて、いっさい表には出てこない。もちろん、何か悪巧みをしていたり、スパイ活動を行なっているというのではない。渋谷のクラブのカウンターで飲んでいると「ここにアクセスしてみたら?面白いよ」という感じで偶然にその存在を知る。そしていつまでもそこにホームページはなく、人に知られると別のURLに移動しているという具合。ある日忽然と登場して、次の瞬間にはどこかへ消えてしまうホームページ。その存在へはぼくらが知らないリンクで誘導され、行って見るともぬけのカラ。

ネットワークのIDが1つ増える度に自分が公開されるのではなく、自分が裏へと潜っていく。パスワードは深く潜るための深呼吸。

インターネットは地球規模の裏ネットワークへの入り口。モデムがどことつながっているのか自分にもわからない。

「彼が接続しているものは何なんだ?」

「さあ、知らないよ。ボクには彼がそこに座ってるってことしかわからないんだ」

ぼくの表向きホームページのURLは、
http://www.bekkoame.or.jp/~oshige/


ASCII MacPower 1995.8月号掲載
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