チェルノブイリ―アメリカ人医師の体験〈上〉 (岩波新書) [新書]
チェルノブイリ―アメリカ人医師の体験〈下〉 (岩波新書) [新書]
ロバート・ピーター ゲイル (著), T. ハウザー (著), 吉本 晋一郎 (翻訳)
政府が定めた規制値ってどうなの?甘いの?きびしすぎるの?いろんな学者がいろんなことを言う。チェルノブイリで治療活動をした経験がある人同士でも、見解が違う。R.P.ゲイル博士は楽観的な方。この人はどういう人なのか、チェルノブイリでどんな治療にあたったのか?1988年刊の著書を読んでみた。
残念ながら医療関連の具体的な記述は少ない。事故処理に当たった消防士など重篤な患者19名にのみ骨髄移植を施したが、生存したのは2名。事故の2年後に書かれた本書は、当然ながら10年後20年後の、後遺症に関しても書かれていない。
だが下巻のp144に
ソ連側から提出された最も確実とみられる推定によると、チェルノブイリ事故の結果、これから50年間に世界全体で5万人もの人々がガンで死亡するものと思われている。その他の可能性として考えられることは出生欠損や遺伝的異常が考えられることだ。問題はこうした悲劇のほとんどすべては、統計的に予想できないことだ。とある。西半球だけでも、これから50年間に6億人がガンで死亡してゆき、遺伝子異常の症例が1億に達するであろう。
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骨髄移植の世界的権威であり、アメリカ人である博士は、チェルノブイリに自分から医療援助に行こうと決心した。当時はまだ冷戦下。このプロジェクトを事実上可能にしてくれた知り合いの事情通の富豪は「博士がまずソ連側から信頼されることが最重要」「しばらくは報道陣に話さないこと」とアドバイスする。
博士がソ連政府や現場のロシア人医療スタッフに受け入れてもらえるよう、苦心惨憺する様子が書かれている。それは博士が批判したり糾弾したりするためにやって来たのではなく、純粋に援助したいだけなんだとわかってもらうため。
当時の博士の言動を読むと、いい人なんだなという感想。それを念頭において彼のフクシマに関するインタビューを読むと、部外者である自分が、事故処理にあたっている日本サイドに失礼な言い方をしないよう、無用に批判をして相手の心を閉ざさないよう、細心の注意を払っているという気がする。
相手が外国語を話す人の場合、また論文でなくインタビューの場合、本人の考えが100%伝わっているかどうかは疑わしい。インタビュアーの署名入り記事かどうか、掲載誌がどのような読者層に向けて出版されている物か、そういうことも判断基準に入れておいた方がいいな。
たとえば、数字的には全く同じ事を言っていても、相手が生身の人間であるからして無用に怖がらせないようにと心配ない風に表現する人、情報を正確に伝えなくてはという使命感からきびしく聞こえるように言ってしまう人、いろいろあるかもしれない。
で、だいじょぶなんですか?という大雑把な問い方だと、まあだいたいだいじょぶ、ぐらいしか答えられないかもしれない。この値だとこれから何年の間に何人ぐらいの被害が出ると考えられますか?その何人かに自分がならないためにはどうすればいいですか?と、専門家には具体的な数字を出してもらう、それを元に判断は各自行うのがいいと思う。
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著書の最初30ページほどに、アメリカの原発開発のいきさつ、原発のしくみの解説があり、簡潔でわかりやすい。
事の始めは、ナチスに対抗してウラン原子の核分裂エネルギーの開発を急ぐよう、アインシュタインがルーズベルト大統領に書簡を送ったことからで、それがマンハッタン計画、ヒロシマ、ナガサキ、そしてチェルノブイリへとつながっていく。
下巻において、ゲイル博士は熱心なユダヤ教徒ではないが、自分のルーツが(アインシュタインと同じく)ロシア系ユダヤ人だということにページを割いている。わたしが日本人で日本を愛するが故に、イラクやアフガニスタンに負い目を感じることと共通の何かを感じる。
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そしてGE社製の初期の原発の安全性と問題点。最悪のケースはこうなるという。。。今その通りになりつつあるんですけど。。。
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巻末で、博士は原発の是非に関して、「現在の原子力エネルギーの危機に対処するため、採りうるいくつかの処置がある」という言い方で、きびしい提言をしている。
(1)「大したことない」と言われる故障や安全装置の不調について業界内で十分情報交換をすること。
(2)もしも原発が技術的に完璧だとしても、運用するのは感情や体調に左右される生身の人間であるということを踏まえて、要員の選抜・訓練を改善すること。
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(7)核廃棄物の問題が解決されるまで新たに原発を作るべきでないこと。
(8)太陽エネルギーの開発。
そして、著者からの読者への心からのお願いとして、「技術的なことに関して完全には理解できていないからといって、意見を述べることを畏れる必要はないから、自らの考えをしっかり持ち、発表してほしい」とある。
党の政策や一時的感情によってでなく、知識に基づいて投票することが、民主主義の国の国民の責任である。と。
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あと、tips。ヨウ素は半減期が短いので、葉物野菜は冷凍保存、ミルクはチーズやバターにしておけば、無駄にしなくてすむとも。