6 09, 2011

プルトニウムファイル

プルトニウムファイル〈上〉 [単行本] アイリーン ウェルサム (著), Eileen Welsome (原著), 渡辺 正 (翻訳) プルトニウムファイル〈下〉 [単行本] アイリーン ウェルサム (著), Eileen Welsome (原著), 渡辺 正 (翻訳)

はあ、長かった。量的にも重さ的にも。著者は空軍の廃棄物処分場の浄化について調べていた。そこで偶然プルトニウム人体実験の書類を目にする。人体実験について調べるとすでに報道はされていたが、被験者についてはコード番号しかわからない。どんな人たちだったのか?実験後どうなったのか?著者は一人ひとり探して遺族から話をきく。

被験者は、最初は末期症状の患者などだった、しかしだんだんエスカレートしていって、若い妊婦たち、4歳の幼児、問題のある子どもを収容している学校の生徒たち、健康な若い兵士たちが何も知らされずに犠牲になっていく。

もうこいつら(実験した科学者)どうしようもないのか?

巨額な研究費と、戦争をきっかけにした医学・科学の進歩が、人体実験やりたい放題のムードを医学のほぼ全分野に生んだ。(上巻p237 )
医師も学生も慈善病院の患者をつかって研究していました。当たらずといえども遠からずですが、私たち医学生も指導教授も、自分は患者と別の階級だと思っていました。(上巻p243 )

救いようがないなと思いながら読んでいると、政権が変わり急展開。1994年クリントン政権下にエネルギー省長官になったアフリカ系アメリカ人の女性ヘイゼル・オリアリーによって核実験が中止され、長年極秘に行われてきた放射能の人体実験は情報公開される。

ローレンス・リヴァモア研究所の前所長ジョン・ナッコルズは、その会議でオリアリーの司会ぶりに仰天したという。「核実験がなぜ必要かという議論になったとき、自分の祖母を説得できないからだと言ったよ。あれはどうやっても忘れない。いいかげんな頭でばあさんを説得するなんて話じゃなく、国家の安全がどうこうと言ってくれりゃ納得もしたのに、女史はあの問題を、技術なんかまるで知らない人間を説得できるかどうかで判断したんだ。真顔だったからたまげたね。」(下巻p254 )

彼女はゲイル博士の本を読んでいたんだろうか?「技術的なことに関して完全には理解できていないからといって、意見を述べることを畏れる必要はないから、自らの考えをしっかり持ち、発表してほしい」と読者へ願っていた。。。

某議員が彼女を「なまいき(uppity)だ」と言ったらしい。「それ知ってます?すごい南部方言。言ったのは議員様よ。自信家で、ものをあけすけに言い、誰にも頼らない、という意味ね。女のくせにそういう態度をとるのは身のほど知らずだってわけ。もっと腰を低くして穏やかないいかたをしろ、他人に頼れ、とね。まあたしかに私は、他人に許しを請うようなことはめったにしなかったから。」(下巻p255 )

同じ事を最近よく聞いた。たしか、菅直人に対する非難の言葉と一緒ですけど。。。

だがもっと大事なことがある。核実験や放射能漏れ、原発事故のたびに政府が出す「無害・安全」宣言はあやしい......と国民がうすうす感じていた、その予感が裏書きされたところである。(下巻p263 )

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物理の研究者は机の上の思考には秀でているが、実験など体を動かして何かを操作するのは苦手な人が多い。きちんと安全上の手順を踏むことも難しかった。研究施設は新設されてから時間が経つほどに汚染されていく。核施設はどんなに厳重に管理しても、年月とともに次第に放射能汚染されていくものらしい。

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このレポートの著者も、核実験を中止し人体実験の情報公開に踏み切ったのも、女性。

祖母は生前よく言っていた「一人ひとりはいい子でも、男の子だけでグループになると悪くなる」と。原発について家庭内で語るとけっこうけんかになったりするらしい。先日河野太郎国政報告会でも、奥さんにどうなってるの?と詰め寄られてけんかになることがあるって言ってた(笑)。

製薬会社による人体実験を暴く夫婦の話、ジョン・ル・カレの「ナイロビの蜂」に
「女たちがアフリカ唯一の希望なんだよ」「女は家庭をつくり上げ、男は戦争を生み出す。アフリカ全土が男女の戦いなんだよ」
という台詞が出てくる。

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「スゲエの見つけたんだぜ。これをそこらへん歩いてる奴らに当ててみようぜ。あいつらぜったい気がつかないし、弱そうなヤツだったらだいじょぶだって。」
「あんたたち、いいかげんにしなさいよ!家に帰って手を洗って、ごはんを食べて、寝なさいっ。」

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そうそう、肝心の実験結果なんだけど、放射線に対して弱い人も居るし、ずっと不調を訴えながらも長く生きながらえるひともいるし、かなり個人差があるんだな、という感想。

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