物理・化学から考える環境問題―科学する市民になるために

物理・化学から考える環境問題―科学する市民になるために [単行本] 白鳥 紀一(編),吉村 和久 (著), 前田 米藏 (著), 中山 正敏 (著), 吉岡 斉 (著), 井上 有一 (著)

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メモ

第5章 公共利益の観点からみた原子力研究開発政策ー高速増殖炉サイクル技術を中心に(吉岡 斉 著)
そのなかの6節「成功しそうにない技術」になぜ固執するのかという項目。

高速増殖炉サイクル技術という存在は、いまだ夢の技術なのか?それとも衰退期の技術なのか?そのイメージによって、原子力開発自体の未来展望が左右される。ので、原子力関係者にとっては死活問題。

科学技術の花形分野として特別待遇を受けてきた原子力研究者の既得権益の確保という現実的問題もある。そのためこの研究には強い生命力がそなわっている(しぶといってことね)。しかしそれでも世界的には衰退の道をたどりつつある。

科学者・技術者は政策決定の場に欠かせないが、公共政策の判断を全てまかせてしまってはまずい。科学者の協力には限界があることを、科学者自身も、政策決定関係者(国民を含む)も知っておくべき。

その限界とは、研究者の能力・利害ということだけではない。彼らが本質的に「前進主義」的な傾向を持つことにあること。問題の解決に当たり、知識の不断の前進という目標を実現するのが、彼らの職業上の思考方法。

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メモ

科学者の問題解決の努力は「パラダイム」による。(詳しくは第7章)パラダイムの説明を読みながら、ああーと思う。

パラダイムを基礎として進められる科学は「通常科学」と呼ばれパズルのような性格を持つ。解答が必ず存在すると信じられていて、正統とされるルール(概念・方法論など)があらかじめ決まっている。その特徴により、累積的発展=解決済みの問題が増えていくという発展パターンを示す。

(ものごとには必ず正解があり、時間がかかってもいつかは解決されるはず。。。って科学者に限らず信じている人は多い)

しかし時間が経つうちに、既存のパラダイムでは説明しにくい変則例が積み重なってくる。次第に多くの研究者が既存のパラダイムを疑い始める。が、研究者は容易には既存のパラダイムを放棄できない。ほとんどの科学者は既存のパラダイムで変則例を説明することを目指す。(ダーウィニズム→ネオダーウィニズムみたいなの?)

それが困難な場合、科学者に与えられる選択肢は3つ。
・転職
・他分野に転身しそのパラダイムに従う
・同じ分野で新たなパラダイムに乗り換える

パラダイムの基本的性格
・プロの科学者集団・制度化された専門分野に属するかぎりパラダイムは絶対的存在
・パラダイムの根幹の中心的信念を決定的に反証することは困難
・科学者は合理的思考を好むが、パラダイムを疑う方向には働かない

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感想

なるほど。有名な大学の組織の中に居た人が定年退職後、足かせが取れたように自由な発言をして、それが話題になりベストセラー。。。養老孟司、武田邦彦氏が思い当たる。

在職中にパラダイムを疑い転身。。。菅谷昭氏。

「合理的思考を好むが、パラダイムを疑う方向には働かない」典型例で一般人からトンデモと言われる人。。。「人は放射線になぜ弱いか」の著者、近藤宗平氏。

ラジオデイズ - 澤田哲生×モーリー・ロバートソン「原発論議、日本に理屈を閉じ込めないで対話を進めよう
この東工大の先生なんかも。なんじゃ、この人?と思っていたが、そういうことか。。。

理系出身の夫は原発推進派の科学者について「だって、理系の性(さが)だからしようがない」と言う。科学者というのは、とことん開発したいし、その過程で出てくる問題も、さらに科学の力で解決しようとする。だって科学者だから。。。らしい。

科学だから正確で間違いはない、科学の力は絶対、というのは錯覚。科学者は科学を道具として使うけど、パラダイムに固執するという人間くさい動機も持つ。それをわれわれ国民は前提として知っておくべき。

そして高速増殖炉サイクル技術が、俗人には理解しがたい非常に高度な技術だからといって、科学者にしかわからないと、普通の人が政策決定に参加するのを放棄してはならない。(また言われた。ゲイル博士も高木仁三郎もそう言っていた)

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わたしの私見

しかしながら、パラダイムに固執するのは科学者だけかというと、様々な職業、特に営業職、製造業、任意団体、愛好会など、価値観を同じくし同じ目標を掲げる団体に属する人は、多かれ少なかれパラダイムに縛られていると思う。環境問題で課題になる、それら立場の違うグループの利害を調整するにあたり、コーディネーターの役割を果たすと期待されている人々がいる。

それは「トコロジスト」と呼ばれるアマチュアの博物学者。トコロジストは場所についてのアマチュア専門家。自然・歴史・伝承・開発予定などあらゆる分野でその土地に通じている人。カバーする分野は極力広く、場所は狭いほどいい。一人では難しい場合は、複数人でグループを形成する。大磯・照崎のアオバト観察会「こまたん」のメンバーと元平塚博物館館長の浜口哲一氏によって提唱された。

今回の原発の事故の前にも、大気汚染、河川の汚染、交通事故の増加、大規模公共事業による環境破壊、食品添加物の問題、などいろいろあり、そのたびに、起こってしまった不都合は、新たな開発により上から蓋をするかたちで解決する、という方法が取られ続けてきた。あーあまたか・・・という気持ちになるが、人々の感覚が変わりつつあるなと思う瞬間もあるようになってきた。とおもうよ。まとまらないけど終わり。