福島第一原発 ―真相と展望

福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書) [新書] アーニー・ガンダーセン (著), 岡崎 玲子 (翻訳)

エネルギー・コンサルティング会社「フェアウィンズ・アソシエイツ」へのインタビューをまとめたもの。

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事故が起きた福島第一の1~4号機と、地震と津波を乗り切った福島第一の5,6号機+福島第二は、どこがちがったのか?それは後から建てられて、災害対策が厳重になっていたから。海水冷却ポンプが建屋で覆われていて浸水はしたものの、津波の衝撃に耐えた。

そこまでの津波対策は必要ないとされても、事実、後から建てられた施設には費用のかかる工事が採用されていた。つまり危険性は認識されていた。ところが先に立てられた施設が、その基準で補強されることはなく、ほったらかしだった。

原子炉の耐震リスクは建設当時の基準のまま。その後、事故や新しい発見により、リスク基準が変更されても、古い施設には適用されない。これは日本に限ったことではない。原発はタイムカプセル。

それはなぜかというと、対策費用が被害予想額を上回るため。コストがかかりすぎて採算が合わない。リスクの算出方法まで自身で決定する裁量が与えられているため、コストに対してリスクを合わせることが容易にできる。

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3号機の爆発で飛び散った核燃料の一部が環境を深刻に汚染してしまう前に、早く発見&回収する必要がある。格納容器の底に溶融して張り付いた核燃料を取り出す技術の開発に10年、それを実行するのにさらに10年が必要になるだろう。その間、訓練された人材を補給しなければならず、被曝量は増え続ける。人的にも費用的にも莫大なコストがかかる。

取り出した核燃料、廃棄物などの保管も困難。日本ではプルサーマル計画があったため、長期保存についての具体的な場所が決まっていない。日本政府は保管場所がないと気づいているため、廃棄物について正面から議論することを避けてきた。アメリカでも最終処分地は決定していない。

原発の安全性を高める費用で、代替エネルギーを研究開発した方が安価。原発の本当のコストが無視され、代替エネルギーと比較され、原発が安価に見せかけられている。

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健康被害について
チェルノブイリにおいても、スリーマイル島においても、住民の健康被害についてデータが正しく集められず「もみ消された」印象がある。政府は食品の規制値を適切にし厳密に検査するなど管理を徹底すべき。
日本の人々が、この問題を自分たちだけのものとして内在化しないことを訴えるのが個人的な目標のひとつ。今はインターネットによる情報共有が存在するので、市民にとって有利。「わたしたちは皆、電力を使ったのだから受け入れるしかない」という考え方をあらため、立ち上がって口を開こう。

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避難と除線の遅れ
事故当日の夜に半径30km以内に避難勧告を出すべきだった。避難命令を発する権限を、現場監督者より高い地位の人間に与えるべきでない。現場は事故の度合いを数時間のうちに理解する立場にあるので。

スリーマイル島では、事故2日後になって女性と子どもの避難勧告が出たが、その時すでに15万人が自主避難していた。アメリカと日本では土地に対する愛着度が違う。科学的な観点から居住に適さない地域に住民を戻してはいけない。

福島原発第一の敷地から地下水を通じて汚染が広がらないよう、地下の岩盤まで達する遮蔽壁を敷地の周りに作る必要がある。可能な対策が、東電の経済的な決断により後手に回ってしまう事を憂慮する。それを許している日本政府は、放射能汚染の解決策は、封じ込めではなく希釈と認識しているのか?

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スリーマイル島も、福島第一も、現場の危機感をよそに本社が決定を下すシーンがあった。経営者の関心は、公衆の健康と安全ではなく、会社の収益。管理職のトップは原子炉のパワーの実感がない。学ぶのに25年かかるが、原子力分野のキャリアは、現場監督のポストで頭打ちになる。本社で求められるスキルは金融。

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著者はかつて原子力産業に従事していたが、原子炉の危険性について内部告発を行い、監督機関であるNRCからもはしごを外され、業界から干された経験がある。

アメリカでは内部告発者を保護する制度は整備されているが、実質的には原子力業界で二度と職を得ることはできなくなる。技術者や管理職による内部告発はあったが、著者のように役員クラスでは他にいない。昇進するに従って失うものが増え、業界の文化に染まっていく。

著者が仕事を失ってから、妻が大学に戻ってパラリーガルの資格を取得して、フェアウィンズ・アソシエイツを設立。著者が原子力業界に立ち向かい、後に起業できたのは、彼女が法律や用語に精通していたおかげ。

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著者は内部告発をしたけれど、科学技術そのものには期待していたので、規制が徹底されることが重要と信じ、安全に稼働させるなら原発もやむを得ないと思っていた。福島第一原発の事故が起こるまでは。

自然の力は人間の力を越える。どんな完璧なシステムも、運用次第で機能しなくなる。福島原発事故の結果はそれほど恐ろしい。日本では何年も前から科学者が地震や津波の被害について警告していたが、コストダウンが優先された。原子力業界では部外者は相手にされない。

原発の職員からの内部告発には単独では協力せず、他の技術者と提携して事実関係を検証し、地元の議員や弁護士を通じて当局に報告する。そうした策を講じても、扇動者と思われる。

日本でもアメリカでも社会的に弱い立場に置かれた人々が原発の現場で作業にあたる。高レベルの被曝をするのは下請け労働者。

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脱原発の立場であっても、推進派を悪魔とバッシングするだけでは意見交換が成り立たない。科学的で建設的な議論を交わすことが重要。イデオロギー的な不毛な争いは無意味。

リスクを分析するほど、安全管理を徹底しても、原発が効率的と主張するのは無理との結論になる。40年間で日本が原子力によって節約したはずの金額は、1日で消え去った。日本がGEを訴えてもおかしくない。

福島第一原発だけを国有化する提案は間違っている。東電の資産はそれ以外にある。会社全体を市場価格で売却し、被害者への賠償や事故の対策費用に充てるべき。火力や送電などを分離して整理するのがベスト。

東電に原発を任せられないと感じるのなら、監督の人員を増やす事が先決。電力が足りる範囲で、古い原発はすぐにでも閉鎖し、新規建設の代わりに投資対象を変える。

今後の課題は蓄電。

貧しい地域の生活水準を上げるために、再生可能エネルギーに投資の機会を与える。再生エネルギーにも環境汚染はある。完璧な発電方法はない。しかし莫大なリスクが集中する原発よりはいい。

各国の事情にかかわらず、どこでも業界が規制をコントーロールしている。でなければコストを抑えられない。かつて原発が安価だったのは、健康や環境へのリスクを除外してきたから。

日本の技術はすばらしい。技術が進歩した今、時代遅れの大規模集中型パラダイムからシフトし、代替エネルギーの開発で世界をリードしてほしい。


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あの日、それぞれの施設で何が起こっていたのか?時々ニュースで見る、今になってわかった新事実、やっと公表された情報、その意味は?で?に答えてくれる解説。こういう素人にもわかりやすい説明を、なぜ日本人がしてくれない?日本語に翻訳される過程で、理系の言葉から文系の言葉にも翻訳されてるからか?このインタビューをまとめた、訳者の仕事はすばらしいな。


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「フクシマではいま、再汚染が起きている可能性がある」米国原子力研究家の警告  | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]

2016.06.03
著者が5年後の福島を訪れて調査した結果からの警鐘。あれから除染も進みつつあるとなんとなく思っていた。あれを機に電力の政策も表向きは変わったように見える。けど、そんなに甘くはなかった。台風や地震は自然や人間に劇的なダメージを与えてもまたすぐに再生する。しかし放射性物質の被害はずっと残る。これは天災とは違う種類のものだ。