ノンフィクションです。永江朗氏のブックレビューを聞いて読んでみました。
TBS RADIO 小西克哉 松本ともこ ストリーム powered by ココログ: 12/13(水)ストリーム・ブックレビュー
地下鉄サリン事件の実行犯の一人、豊田亨は教団や元教祖の批判はするが、自己弁護は一切行わず被害者への償いとして自分の死刑を望んでいる。著者は豊田の元同級生で現代音楽家。普通の人だった同級生がなぜあのような団体に入って犯罪を犯したか?
著者はマインドコントロールについて検証するうちに、これは特殊な例ではなくて、誰にも起こりうることだと思い始めた。母校に戻り若い学生を指導する立場になった著者は、後の世代がまた同じ過ちを繰り返さないよう、事件の詳細を保存する必要を感じる。
そのために、黙して語らない豊田に接見し、あのとき何があったのか話してほしいと懇願する。黙っていなくなるより、情報源として生き続けてほしい。個人が裁かれ事件が世間から忘れられるのを防ぐため、著者は数年かけて原稿を二つ用意した。一つは最高裁に提出する上申書。もう一つが社会に出すためのこの本。
著者はわたしと同じ60年代生まれです。読後に残ったのは、著者の不器用さ、かっこ悪さ。それを隠さず訴えてくる必死さ。amazonを見ると「著者の自己顕示欲が。。。」というレビューもありますが、わたしはそうじゃないと思います。
無味無臭の人が語る言葉より、生い立ちや家族のことまで明らかになっている人が語る言葉の方が心に残ります。著者が豊田に「取るに足りないと思われることでもいいから話してほしい、なんでもない小さなことが大事なんだ」と語りかけるシーンがあります。本質は思いもかけないところから訴えてくる、それを逃さないためには語り手自身が取捨選択しないことが大事だと著者は述べています。
それを著者自身も実行しつつ、もしかして自慢?ともとられかねない事も総動員して、読者を説得にかかっているんだと思いました。その点で著者は村上春樹の「約束された場所で—underground 2」を批判しつつ、同じ手法をとっています。
この本には「相棒」というキャラクタが出てきて著者と会話しますが、その仮想読者に親しく普通の言葉で語りかけることで、難しく抽象的になりがちな話しの内容をわかりやすく伝えています。
この本の題名「さよなら、サイレント・ネイビー」は、「個人が黙って責任を取ることで事件を忘れるのはやめよう。全てを明らかにして、後の人が同じ過ちを繰り返さないようにしよう。」という意味らしいです。
人口密度が高い日本では他人の主張がストレスになります。客観的な言葉より感情や空気が優先される。けどそれはその場、その瞬間のものだけで、時間が経てば消えてしまいます。国家的な犯罪の責任者が言葉による詳細な記録を残さないと、後の世代は過去から学ぶことが出来ずまた同じ過ちを繰り返すでしょう。
■関連キーワード
・複雑系、創発とイリヤ・プリゴジン
・ルワンダの虐殺ー今月WOWOWで映画が2本放送される
・「天皇と東大」(立花隆著)ーううまた出たか、漢字が多いんだもん。漫画化されないかな
・平泉澄(きよし)
■マインドコントロールについて
新興宗教、マルチ商法、自己啓発セミナー、違う分野のはずなのに、なぜか勧誘してくる人の口調はとっても似ている。先日、ある人から、それらには共通のモデルがあると聞いた。アメリカでベトナム戦争の帰還兵を治療する必要から、大量のセラピストが養成され、マインドコントロール法が授けられた。戦争が終わり、失業した彼らはその手法を使ってビジネスを始めた。というわけだ。ほんまかいな?と検索したらこんなのがありました。
Folklores of LGAT: 自己啓発セミナーの都市伝説
自己啓発セミナーの周辺では、「自己啓発セミナーは、
ベトナム帰還兵のリハビリテーションに起源を発している」
という都市伝説があります。
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いつだったか親友がくれた手紙にあった言葉を思い出す。
「一体自分はどうしたいのか、それをいつも自分でわかっていないと、他人を傷つけてしまうの。」
ああ、ほんとに。でもむずかしいよね。自分は何を恐れ、何を欲しているのか?客観的に観察し事実を認めるのは。いつも幽体離脱して上から見てるわけにはいかないし。
川柳や4コマ漫画を趣味にするってのもいいかもね。宗教の敵は「お笑い」って「薔薇の名前」でも言ってたしね。