5 19, 2011

原発事故はなぜくりかえすのか

原発事故はなぜくりかえすのか (岩波新書) [新書] 高木 仁三郎 (著)

高木仁三郎さんの遺作。本書は著者が病床にて残した録音テープを書き起こした物。やさしくお話をしてもらっている感じ。

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以下メモ

原子力は産業技術指導方ではなくて、むしろ国家主導型というか、政治主導型で始まっていった。

議論無し、批判無し、思想無し、の三ない主義。

アメリカの場合、原子力導入の過程で大きな議論になったのは、大事故の際、一企業が損害賠償をする範囲を遙かに超えるのでは?という問題で、電力会社の原子力への抵抗は強かった。

日本でも同じ問題を抱えていたが、きちんと議論されなかった。大事故の責任までとりきれるのかという議論を真剣にせずに、事故が起これば<国まかせ>ということで突き進んでしまった歴史がある。

原子力の社会史―その日本的展開 (朝日選書) [単行本] 吉岡 斉 (著)

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原発側の雑誌「原子力工業」に寄稿している研究員の論文はだいたい「我が国は」と始まっている。必要以上に国を背負っている。

個人の欠如=何回事故を起こしても個人個人の責任が自覚されない。モラルというものが確立する前提がない。

放射能をきちんと知らないで原子力を利用して生きていこうというのは無理。大事故が起きるか起こらないかはわからない(著者は2000年に死去。本書はその2ヶ月後に刊行)。我々はどんな核汚染にさらされるかもしれない。放射能とはどういうものか、どのように人体に影響を与えるのか、もっときちんと知らなくてはならない。賛成、反対以前に、ます正確に知らなくてはならない。推進派の原子力屋さんは、そもそも放射能を閉じ込めることができるという基本的立場に立っているから、非常に楽観的に考えている。

物理分野の研究者と、化学分野出身者では、物への接し方のセンスがまるで違う。物理出身は、机の上で緻密に計算できるが、予想外の現象を起こす物質というものの扱い方、接し方の土台がない。マニュアル通りでないとか、教育が足りないとか、モラルの問題ではなく、物を扱う経験の不足。

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島田雅彦と高橋源一郎の対談をテレビで見て、小説家にとっての「パブリック」な立場について考える。私小説だけでもよくないし、社会派だけでもよくない。これは小説家だけでなく、自分たちのことでもあると、瞬間的に思った。パブリックな意識のなさというのは、いま我われ日本人の中に蔓延している。

技術の場合にも同じ事がいえる。自分の仕事にパブリックな意味があると自覚しているか?自分のやっていることの公的な性格や普遍的な意味、地球の未来に自分がどうつながっているかというようなことが見えなくなってきてしまっている。

仏師の公共性

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自己検証のなさ

寄せ集め技術の危険性。日本では大きなプロジェクトは各社に少しずつ仕事が回るように
国策的に割り振られることが多い。そのようなプロジェクトは多くの場合、思わぬ欠陥が露呈したり、1社でやるよりコストが割高になりがち。失敗した国家プロジェクトの例:H-2ロケット、原子力船むつ、高速増殖炉もんじゅ、再処理工場開発、六ヶ所村ウラン濃縮工場、新型転換炉ふげん、すべて多企業寄せ集め型プロジェクト。

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隠蔽から改竄へ

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技術者像の変貌

もともと西洋的な工学技術が日本に受け入れられる段階で、受け手の側は技術という物の持つ本来の公的な性格を見失っていた。他方で、日本古来の職人的な技術が持っていた公的なものがあったはずだが、そういうものを受け継ぐようなところもなかった。

新しい時代の技術者の倫理綱領が必要。アカウンタビリティーや責任と言うことと、ITの関係。インターネットで流れるような情報にもきちんとしたアカウンタビリティーが確立され、その背景にはそれに責任を持つ個人というものの存在がはっきりとしないといけない。

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技術の向かうべき所

技術の極地はパッシビズム。人為的介入が無くても、事故がおさまるようなシステム。流水や太陽熱など自然な法則にしたがい循環の中でエネルギーを賄えるシステムが、安全への懸念を解消する。

人間が自然の法則に逆らって自然界を制御するという考え方、システムのあり方は、これからは古くなってくるかもしれない。

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最終章を読むのに2日かかってしまった。この本が刊行されたのは2000年。JCOの臨界事故後。大事故が実際に起こってしまった今、原発推進派vs反対派の図を冷ややかに見るだけだった我われの意識も変わったし、技術者のみなさん、特に当時原発の開発に携わった方たちには大きな衝撃だったと思う。

福島原発暴発阻止行動プロジェクト | Skilled Veterans Corps at the Fukushima-Daiichi Nuclear Power

原発「決死隊」126人が志願 ボランティアの退役技術者たち(J-CASTニュース) - livedoor ニュース


Peace Philosophy Centre: 福島原発事故についての緊急建言

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