Martin J. Wells 著
長野 敬+野村 尚子 訳
主にタコやイカなど頭足類の研究をしている生物学者による、海洋生物の博物誌。
最終章の「科学者は有益でなくてはならないか?」より。
生物を研究する意味について。生物学的現象は非常に複雑な場合が多く、完全な解答を出すことは困難。だが、統計的記述が理解できるようになるので、不確実性の量を計ることはできる。「何パーセント確実だ」という風に。その点が形而上学的世界観を追及する数学や物理学とは違う点である。生物学者は絶対的な確信を装わない。人の考えることは誤りやすいという前提から出発しているので、現実的なアセスメントに適している。
第10章「ウバザメと政治・経済」には海洋資源の乱獲について記述があります。
わが家では、カニをお歳暮に贈ったり、フカヒレスープ食べたりするのをやめました。どちらもムチャクチャ乱獲されているから。結局消費者が食べるのをやめて需要をなくすしかないでしょう。たった一軒でやっても意味がないと言われたって、一人ひとりがやらなきゃいつまでたっても乱獲はなくならないので。
サメについては、水銀の蓄積量も心配です。
農林水産省:平成15年6月3日に厚生労働省が公表した「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」について(正しい理解のために)
キンメダイやメカジキだって、インド洋産と書かれていても、本当かどうか消費者にはわかりませんから、たまーにしか食べません。バンドウイルカにいたっては「妊婦は2ヶ月に1度、60〜80グラムぐらいにしときなさい」という危険度。イルカなんて誰が食べる?とお思いでしょうが、スーパーなどに並んでいる鯨肉はイルカが多いそうです。あと、海の大型捕食動物といえば、マグロですが、マグロについては調査対象ではない(!)と聞いたことがあります。
人が代謝によって体から排出しなければならないのは、魚に含まれる有機水銀だけではないというのもあります。ダイオキシン、農産物の残留農薬、水道水のトリハロメタン、汚染大気、住宅建材や家具の化学物質。。。人体の代謝部門は重労働で大変なんじゃないでしょうか。自分の体と話したことがないのでわかりませんが。
第14章「イルカ」より。イルカは知能が発達している、その根拠は脳が大きいから。という説があるが、そもそも知能の高低は人間同志でも定義しにくい。それは人が属する文化によるので、西洋人が考える知能テストと、アボリジニが考える知能テストではかなり内容がちがうだろう。
イルカは視界の利かない水中で高周波を出して周りや自分の位置を確認する。そのエコーの分析に大きな脳を必要とする。しかし特定の計算処理のために脳が大きいからといって、知能が発達しているとはいいがたい。著者は鯨類を保護する立場だが、それは鯨類が高い知能を持っているからではない。
以下は私の考えですが、陸上にしろ、海中にしろ、食物連鎖の頂点にいる大型捕食動物は、環境の指標になります。汚染、乱獲などの問題に正面から取り組むことなく、鯨類を駆除することでつじつまを合わせようとする考え方には賛成できません。