10年ぐらい前「ウイルス進化論」の文庫版を読んだとき、あとがきに書いてあった事を思い出した。ウイルス進化論とは、遺伝子が血縁の無い個体同志で水平方向にも伝わる事がある、それを介するのはウイルスだという、新しい進化論。今では遺伝子組み換えなどバイオテクノロジーでウイルスが使われているように、実用化されている。
「ウイルス進化論」が書かれた当時はまだ新しい理論だったため、いろいろな研究者から著者に問い合わせが来たそうだ。あるとき、生物学とはまったく無縁の研究室から参考にしたいという問い合わせがあった。著者がおどろいて会って見ると、それは交通システム、具体的にはカーナビのシステムの研究室だった。そして「ウイルス進化論に基づく制御充足問題の解決」というタイトルの発表が情報処理学会で行われたといういきさつが書かれてあった。
まったく別の分野にまたがる問題。それまでの学問体系にはなかった分野。「スモールワールド・ネットワーク」は著者が「SYNC」の著者 スティーヴン・ストロガッツと共に、その存在に光を当て、模索したドキュメンタリーでもある。(SYNCにもスモールワールド・ネットワークについての章がある)
ネットワークのモデルは「ベーコン数」が有名だが、そのような現象を理論によって説明できる、いやしようとする試みがすごい。ネットワークを理論化するという試みは、昔は仮説を立てても検証のしようがなかった。それが今は巨大なデータベースを瞬時に処理できるコンピュータというものがあるおかげで可能になったそうだ。
世の中のすべての問題はすでに解決済みで、残されているのはとてつもなく難しく人類には取りつく島も無いような気がするが、世界のどこかで着々と新しい分野の研究が、というか分野が開拓されつつあるのだと思うと、いやあ、世界っておもしろい。
ウイルス進化論―ダーウィン進化論を超えて 中原 英臣 , 佐川 峻 |