アリステア・マクラウドの名前は池澤夏樹のメルマガで知った。響きから女性の作家なのかと思っていたが、実は男性、しかもかなりガテン系の経歴のある人らしい。この短編集に収められているのは著者が子どものころの思い出、家族や家畜の生と死にまつわる話、農民だった祖父母や父母の物語。飾りのない簡潔な言葉で語られるその話のあらすじのみを取り出すとかなり激しい話ともいえる。なのに読後に思い出すシーンは繊細でかけがえのないもの。
1冊読み終えた後は、お遍路の旅から帰って来たようだ。何も持たず誰とも会話せず自分の心の中と向き合うとき、最後に残るのはやはり自分が子どものころに関わった人たちの物語かもしれない。それは強い印象を残し、後々大きな物事について判断を迫られたとき影響を及ぼす。成長した後に得た情報はそれを裏付けるための補強材に過ぎないのだと、このごろ思うようになった。結局人は愛され大切にされた記憶と共にあるものを選ぶ。だから大切な人には大切なものを残さなくてはならない。