この本いい本。
文部科学省が小・中学生向けの原子力関連の副読本を2010年10月に発行し配布したが、原発事故が起きたという現実と副読本の内容がかけ離れたものになってしまったため、回収された。わたしもこの「チャレンジ原子力ワールド」という本は図書館で見たことがある。事故後に原発関連のコーナーで手にして「ありゃりゃ〜」と思った。もうこんな教育やってんじゃダメでしょ、どうにかしなきゃという提言。改善例としてイギリスの公教育が紹介される。
エネルギー、環境、食品など市民生活に密着した問題を扱う場合、専門性の高い科学情報による政策の判断が、一部の研究者から市民へ一方的に与えられるのではなく、市民も考え政策に提言できるように、専門家と対話ができるようにするべき、そのような市民を育てよう、情報を公開して誰でも事案を検討できるようにしよう、それが事故の予防策にもなり、結局社会全体にとって利益になるという内容。
イギリスの場合はBSE騒動が契機になり、保守党の議員からの提言によって、このような教育方針に舵が切られることになったらしい。長年の保守党の議員からの提言というのが感慨がある。
「面倒な反対意見を抑え込む VS 権力にはとことん反対」の構図ではもう不毛な議論が続くだけで、誰も問題に関心を持たなくなる、問題が放置され、とんでもない国になってしまうという危機感があったのだと思う。
教育とともに大事なのは情報の公開でもある。それと、専門情報を一般市民にわかりやすく伝えてくれるジャーナリストの存在。このごろはラジオやポッドキャストでもサイエンスの先端情報を扱う番組があり「科学コミュニケーター」と呼ばれる人が活躍している。制作費が高いテレビではスポンサーが必要で番組内容が企業寄りになることがあるかもしれないが、ラジオやインターネットラジオは安価なので出資者の影響を受けず視聴者が知りたい情報を発信できる。
情報インフラの変化も公教育に影響をおよぼすことになるんだろな。学校でいってることとインターネットで得られる情報があまりにかけ離れていたら、こどもたちは学校や大人を信用しなくなるものね。
- 行政や企業の枠に縛られない生活者としての感覚を持った市民の科学者を育てようということは、事故前から日本でも言われていた。高木仁三郎の著作に書かれている。r2: 原発事故はなぜくりかえすのか
原発立地の裁判で、ほとんどの裁判官は専門家の判断をもとに住民の反対を退けたが、珍しく住民側を勝訴にした高等裁判所の裁判官は、1年間をかけて推進派、反対派双方と共に勉強会をやって原発の仕組みを学習した上で判決を出した、というのを思い出す。r2: 原発と裁判官 なぜ司法は「メルトダウン」を許したのか
岩波ブックレットは同時代の身近な問題を扱い、字数が制限されているのですぐ読め内容が濃い。判型も小さく薄く持ち歩きやすい。値段も500円とお手頃です。