心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで

心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで 単行本 - 2017/4/15 キャスリン・マコーリフ (著), 西田美緒子 (翻訳)

トキソプラズマに寄生されたネズミはネコ好きになってしまうとか。。。この本の前半部分の概要は「昆虫はすごい」にも書かれていたような話。。。↓こんな感じです。
エド・ヨン: 自殺するコオロギ、ゾンビ化するゴキブリ、その他の寄生生物にまつわる話 | TED Talk
(コオロギと訳されているのはカマドウマのこと)


ところで、ある日本人研究者によると、ハリガネムシが水に飛び込ませた虫の量が、その川に住むマスの餌の6割に該当したという。。。異なる生態系間のエネルギーの移動を寄生虫が担っているかもらしいと聞いたことがあります。
寄生者(ハリガネムシ類)が改変する森林-河川生態系 -- 京都大学
【研究室】研究室に行ってみた。神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

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この本の後半は、ヒトの体内に寄生する微生物がその人の性格(保守性・信仰心)や属する社会に及ぼす影響についてです。

たとえば、感染症の宝庫である山岳地域などでは、集落ごとに特定の感染症への耐性があったりして、村内では全員平気なのに外界からの訪問者が罹患すると重傷になるとか、逆に村民が耐性を持たない菌を持ち込まれると、全員がアウトとか、で、誰がどこの出身かわかるように民族衣装が決められていると著者は推測する。衣裳がカルテなわけですね。

ヒトの保守性や信仰心は実は寄生虫の操作によるものかも?

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心を操る寄生生物

メモ:

カニに寄生するフジツボの仲間フクロムシ。カニは寄生されると成長を止め繁殖能力を失う。甲羅にいろいろ付いているのは脱皮をやめたから。

ゾンビアリ LSDと関係

トキソプラズマは脳でドーパミン、睾丸でテストステロンの生産を増やし、恐怖に回路を切断する(ネズミがネコに近づきやすくするため)ヒトが感染すると実直さが薄れ外交的になり、交通事故を起こしやすくなる。ドーパミンの過剰さと関連がある統合失調症を起こす一因にもなる可能性がある。
ドーパミン、GABA、グルタミン酸塩、そのほかの重要な神経伝達物質を、脳の200ヶ所で変えていく

犬猫の体内でしか成長しないトキソカラが脳に入ると記憶などに障害をきたす。糞の管理、駆除剤 の市販などが必要。

腸内細菌と脳のつながり

微生物起源の遺伝物質の総量は、人間自身が持つ遺伝物質の150倍にもなる。簡単に言えば、自分の90%は、実は自分ではない。p134

大人も子供もおよそ2000〜3000種の微生物に住処を提供しており、全く同じ組み合わせを持つ人間は二人といない。自分の微生物相は指紋と同じで、自分だけのものだ。

腸内で暮らす微生物は、感情を調整している神経伝達物質のほとんど全て、さらに精神活性作用をもつホルモンまで、大量に生産する役割を果たしている。

自分と異なる免疫遺伝子を多く持つ異性を選択するのに、無意識に匂いで判断している可能性

この本の前半部分の概要はこんな感じです。

https://www.ted.com/talks/ed_yong_suicidal_wasps_zombie_roaches_and_other_tales_of_parasites/transcript?language=ja

この中で出てくるコオロギと訳されているのは日本の場合カマドウマです。寄生によるエネルギーの移動を森や川の生態系間のエネルギー移動と考えると、寄生生物の役割のすごさに驚かされます。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141105/423029/?ST=m_labo


「昆虫はすごい」に書かれているように、昆虫の世界では寄生したりされたりが日常茶飯事で、乗っ取ってなんぼの世界なのですが、哺乳類、しかもヒトの場合でも、体内に住む微生物の持つ遺伝子情報量から計算すると、自分の90%はすでに自分ではないという報告があります。

アレルギー体質の私には、脳による意思決定以外に、免疫系が支配するもう一人の自分がいるという感覚は以前からありますが、感情が腸内細菌が生産する神経伝達物質やホルモンによって影響を受ける、特に嫌悪や偏見、差別の感情が免疫と関係しているというのは興味深かったです。


大事なのは後半で、

地球上で過去に感染症の脅威に晒された地域では、人々は保守的、内向的(家族主義・民族主義)集団主義的傾向をもつ。
寄生生物のホットゾーンに暮らす人々は、特定の寄生生物と共存できるように適応している。離れた場所に移動すると別の生物に脅かされるかもしれず、集団の外から侵入者が入ると適応していない寄生生物を持ち込まれるかもしれない。
そのような社会では共同体のアイデンティティを表す記号が発達する。方言、衣服の流行、宗教上のしきたり、料理法、音楽など。

寄生生物のホットゾーンと、集団主義・独裁政治・ジェンダー差別・ヘイトによる紛争地域が重なる。

この本の結論は、世界中で起きている紛争を全ては寄生生物の脅威によると説明できるものではないにしろ、公衆衛生によってそれを解消すれば、全世界が西欧社会のようになるという短絡的なもので、私は共感できない。
が、ヘイトや偏見は遺伝子が持つ太古の記憶によるもので、その説明し難い不安や恐怖を、寄生生物そのものに対してなら当然だが、乗り物であるヒトに感じるのは、現代では意味のないものだと知っておくのは大事だねー(って、当然のことで言われるまでもないことでしょうが)

「人体 5億年の記憶
解剖学者・三木成夫の世界」を読んだ直後だったので、2冊がつながって興味深かったです。