「クモのはなし」を検索していてふと目に付いたこのシリーズ。師匠から「このマユ調べといて」と渡された草の茎についた直径2cmほどの白いマユを、マヨネーズの空きビンに入れて放置しておいたところ、ある日20匹ほどの小さな羽虫がマユから羽化していた。2ミリほどの小さな羽虫はビンのフタのガーゼに阻まれて外に出ていけずに、ビンの底でお亡くなりに。。。気がつかなくてゴメンよ。。。その虫をルーペでみると、それは小さいながら一応ハチ(蜂)だった。こんな小さなハチが存在するとは!
一つのマユから20匹。。。何か出てくるなら1匹だとおもっていたのに。マユをカッターで切ってみると、外側の白い糸とは少し色が違う糸によって、細長いマユが同じ方向にそろって積み重なるようになっている。ハチの幼虫が集まって規則正しく整列し集団で繭を作りサナギになったのだろうか?どうやって?
岸一弘先生に写真をお送りして見てもらって、ハチはコマユバチの仲間ということがわかった。ネットで検索すると、大変恐ろしいことが書いてある。コマユバチの仲間のメスは、ガの幼虫(アオムシ)に卵を産み付け、孵化した幼虫はアオムシの体内で生き続ける。成長すると宿主の表面から一斉に出て繭を作ると。バッタや甲虫類に寄生するボーベリア菌も恐ろしいが、このコマユバチの仲間の寄生はそれを上回る。
普通、体内に入った異物は免疫により退治される、または異物が強力な場合、寄生された宿主は死亡する。しかしコマユバチとアオムシはどちらも死なずに生き続ける(コマユバチが出るまでは)。コマユバチの幼虫たちが出て体表が穴だらけになっても、アオムシは死なずに生き続けるのは何故か?コマユバチがサナギになる前に、アオムシがサナギになってしまったら?
「寄生から共生へ―昨日の敵は今日の友」共著者の一人、早川洋一さんの研究。「寄生バチをめぐる三角関係」でも概要を読んだとおり、ハチの幼虫が宿主であるアオムシの体内で生きていられる秘密は、ポリドナウイルスというウイルスの介在があるらしいのだが、そのしくみを分子レベルで調べていくドキュメンタリー。
ポリドナウイルスは、ハチの種類ごとに違う種類が存在し(1995年当時)40種類ほどが報告されている。ポリドナウイルスの遺伝子は、寄生バチのゲノムDNAに組み込まれていて、ハチの子孫へは垂直伝播する。オスメス両方の寄生バチの体の細胞内に存在するが、増殖できるのはメスの卵巣でのみ。ウイルス粒子は卵巣内側輸卵管でのみ見られる。寄生の際には、卵や毒液と一緒にアオムシに注入される〜そしてゲノムDNAのみアオムシの細胞に感染する。ウイルス遺伝子についていえば、常に寄生バチからアオムシへの一方通行。(コロナウイルスのしくみをテレビで見ていたので、エンベロープとかの言葉にもついていけた!)
から話がさらに専門的になって、知識としては字を読めても、心から理解することができず、受験勉強ぷくなってきたので、早送りでページをスキャン。
終わり近くに、衝撃的な記述が。現在は寄生バチのゲノム内に一体化してしまったポリドナウイルスが、そのゲノム内にアワヨトウガ(宿主のアオムシ)の遺伝子を持っているということは、このウイルスが過去にアワヨトウガと遺伝子のやりとりがあったことを意味する。。。ガとハチという異なる種類の昆虫の間で遺伝子のやりとりが!
ポリドナウイルスがどのように進化してきたのか?知りたい!!(誰か調べて)
さて、この本は1995年刊行なのです。分子生物学の分野の研究はすごい速さで進んでいると思います。今はどうなってるの?とっくにいろいろわかっているの?
「生物多様性」ってなぜ必要なのか?今までよくわからなかった。珍しい種が絶滅してしまったら、コレクターとか詩人とかが寂しいからなのか?今回、現実に世界的なパンデミックという事態に遭遇し、ウイルスの影響が日々報道されるのを見つつの、一見関係なさそうな寄生バチの生態の研究を読んでいると、ん?これ今まさに世界中の研究者が血眼になってやってることと似てない?と感じることがあった。どんな生物もいつ人類にとって役に立つかわからない、貴重なサンプルを保全しておくの大事。標本じゃ無くて、生きている状態で環境ごと。と思った。
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