エクソダス アメリカ国境の狂気と祈り

エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り (日本語) 単行本(ソフトカバー) - 2020/10/16 村山 祐介 (著)

アメリカ大統領選挙中に、ラジオで聞いた話に興味を持ち、話をしていたゲストの著書を読んでみました。

【音声配信】特集「アメリカ5,000キロ縦断、100人以上を取材。大統領選挙でさらなる分断が進む、アメリカの声とは?ジャーナリスト・村山祐介さんの取材報告」▼2020年11月6日(金)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session」平日15時半~)

著者は元新聞記者。この本で扱っているのは、アメリカ、メキシコ国境を越える移民について。違法移民対策の壁とは何なのか?それを越えてくる人たちとはどんな人たちなのか?実際に現地に行って、移民のルートを著者も辿り、関係者に直接取材したドキュメンタリー。その旅路はアメリカ〜メキシコ〜グアテマラ〜エルサルバドル〜ホンジュラス、パナマ〜コロンビア。

・アメリカ側の壁の周辺で、壁ができることに賛成している人はいなかった。国境が開かれ自由に往来できた方が、経済的に潤い、マフィアの裏家業が減って安全になる。壁を望む人々は、壁から遠く離れたラストベルト地帯にいる(著者はそこにも取材に行った)。産業構造の変化による経済的な不満や不安を、移民のせいと短絡的にとらえ、壁が解決してくれると思わされている。

・アメリカ国境を越えようとやってくる移民はメキシコ人だけではない。中南米各国、シリア、カメルーン(英語圏)、インドなどからも。その陸路の出発地点はエクアドル、チリ、コロンビアなど。厳しい地形や気候、マフィアによる危険な場所を通過する。道中あちこちで白骨死体を見る。それでもアメリカに逃れてくるのは、故国でもマフィアや反政府組織、自国の政府組織により殺される危険があるから。故国から逃げても逃げなくても生きるか死ぬか。

・マラスというギャング組織がある。若い男の子がメンバーにスカウトされて断ると殺されるので、その夜のうちに家族で国外に逃げ出すパターン。マラスの組織メンバーは普通の村人の中にもいて誰がそのメンバーかわからない。マラスに目を付けられると、家族構成や日常生活のパターンすべて調べられ、逃れることはできない。

・マラスは最初ロスアンジェルスで、他国の移民に対抗するため、移民により結成された。米政府により強制送還されたメンバーが故国でもその組織を継続維持したのが始まり。マラスの資金源の一つが誘拐。アメリカに移住した家族に連絡し身代金を払わせる。家族がいなかったり、支払いを拒否した場合は殺害。

・一家の稼ぎ手がアメリカに移住してしまって「親世代」が空洞になっている家庭の子に、マラスが近づく。経済的な困窮を解決するために、家族や地域社会が機能しなくなり、マラスが入ってくる。貧しくとも子供のそばに親が居てやることが重要だが、難しい。

・内戦により傷ついた心をケアする「生活改善」というプログラムがJICAの提供である(現地の人を日本で指導員として養成したもの)。「生活改善」の原型は敗戦後にJHQにより提供された。特に沖縄で効果を発揮。「生改さん」と呼ばれた人たちが地域で活躍した。炭酸飲料を飲まない、規則正しく生活する、家事をきちんとやる、などの基本的なプログラム。地域の女性7、8人で集まって、互いの話を聞いたりなど。

・エルサルバドルの刑務所に、マラスを収監した際、対抗している2大組織を別々の棟に収監したのが発端で、マラスの組織が所内を支配するようになるー>所内から殺人などの指令が出されるようにるー>看守も手を出せなくなり刑務所がマラスの要塞化した。結局、当局が刑務所の壁に穴を開け、受刑者を捕獲して離れた刑務所に収監しなおした、という事件があった。

・大金で移動を手引きするコヨーテという職種の存在がある。移民のルートはマフィアによる密輸のルートと重なる。移民の大量死が報じられ、ルートがメジャーなニュースに出たことを怒ったマフィアが報復としてコヨーテを何人も制裁(殺人)した事件があった。

・移民の移動ルート上には点々と、カトリック教会や福音派教会による保護施設がある。旧約聖書の出エジプト記(エクソダス)や、スペインのサンチャゴ・デ・コンポステラの巡礼路になぞらえて、信徒を救済するため。迫害された民の逃避行を助けるという逸話はキリスト教的。(いつだったか、飲み潰れた知らない女性を家に泊めたとカトリックのシスターの大叔母に笑い話として話すと、聖書的だわと喜んでいたが、わたしは???だったのを思い出す)

・オバマの時代にパナマとの国交が正常化された。それは喜ばしいことではあるが、難民認定がされにくくなったため、違法にエクアドル〜〜メキシコ経由でパナマ難民が入ってくるようになった。

・コロンビアでかつて非常に危険とされた町メデジンが、今では安全に生まれ変わっている。貧困層の救済に集中して資金を投入したため。その投資先の一つが、町の中心と貧困地区を結ぶロープウェイの増設。貧困地区の人たちが仕事や学校に行けるようになった。

・移民ルートで最も厳しく危険とされる、コロンビア〜パナマ間の、ダリエンギャップという地域の麓を、天候の悪化により著者がやむなく馬で通過した際、ガイドから「蝶の採集に来る生物学者をよく案内する」ときかされた。ガイドは著者を「生物学者だ」と出会う人ごとに説明しながら進んだ。よそ者を厳しく監視しているマフィアも生物学者はフリーパス。

(人気テレビ番組、クレイジージャーニーでとりあげてもらいたいコンテンツだが、番組は終了してしまった。その原因はやらせと言うことだったが、視聴者として、ちょっとやそっとのやらせは構わない。番組で大事なのは、そんな小さな事じゃないので。)

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アメリカにおける移民の問題は、実はテレビドラマでよく見ていた風景。ロスやマイアミが舞台のサスペンスものには必ず出てくる。ドラマ「スタートアップ」(2016)を思い出す。AmazonPrimeVideoFacebookSuperDramaTVでは、主人公3人のうち、一人がハイチ人で移民、もう一人もキューバ人で移民出身。

思えば、わたしも生まれ故郷から関東に移民してきた。若い頃は、シリコンバレーに住みたいと思った時期もあった(実現しなかったが)。日本語が通じる場所は怖くなかったが、日本語圏の外は怖かったのね。

あれから月日が経ち、政情も経済状態もかなり変わった。そして今は、自分たちが生きている間に起こるとは思わなかったパンデミックという事態により、移動が制限されている。しばらくは、経済と移動の制限の問題について、いろいろ思うことがあるのだろうなあ。関係ないけど、コーヒーが切れて、次何買うか?と思っていたところ、なんとなくイオンのフェアトレードコーヒー、グアテマラブレンドと、コロンビアブレンドを買ってしまった。

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大統領選の最中に聞いた番組で、アメリカの社会を知ることにもなったおもしろい話題としては以下の物もあった。

アメリカ在住、町山智宏さんの解説 
何故トランプは今回選挙資金を集められなかったのか?
「ええ!そんな理由かい。。。絶句」という内容。足の力が抜けたよ。
https://www.pscp.tv/w/csfuzTFvTlFsT3dhQkd2RXd8MU95SkFnakV6Tm9LYsEtvhuyOTjFvwi9bTjfKpkvwj2FOusetaCyQofVyF9M

spotifyで聞いているポッドキャスト「朝日新聞ニュースの現場から」より
ラストベルトに住んでみて取材した記者による、現地の声。
#92 壁があるなら壊そうぜ トランプ支持者との向き合い方を考えた
朝日新聞 ニュースの現場から
https://open.spotify.com/episode/14gA49BPmDUEMXiB6kuySJ?si=tFCVmsG_SXWm0dVSmQdRxQ
#91 トランプ氏の支持者たちは今、何を思うのか ラストベルトで聞いた
朝日新聞 ニュースの現場から
https://open.spotify.com/episode/5xoSis1e5QNuswlUzjsTkP?si=GGoyvN8WQjOVBxPfHV6_0Q