1 06, 2013

静かなる大恐慌

静かなる大恐慌 (集英社新書) [新書] 柴山 桂太 (著)

エマニュアル・トッドは「自由貿易は、民主主義を滅ぼす」で、グローバル化は世界規模で存在する不平等のレベルを各国の内部に導入すると。地理的に、政治的に近い場所で、貧富の格差が大きくなると。

最近読んだ、孫崎 享 著「日米同盟の正体 迷走する安全保障」では、グローバル経済により緻密に連携された経済社会では、簡単に戦争が起こりにくくなると。

そして、この本では、第一次世界大戦と第二次世界大戦は、グローバル化により起こったと。自由貿易経済→バブル→弾ける→恐慌→国内の経済格差や不満(イマココ)→ブロック経済やファシズムの台頭→戦争というパターンを踏むのが資本主義のさだめらしい。

グローバル化により世界経済が統合され、平和で安定した社会になるというシナリオが無自覚に前提とされている。日本では、グローバル化が失敗に終わるという可能性について議論されることはない。

トーマス・フリードマンなどが主張するような「世界経済の結びつきが強くなった結果、国家は簡単には戦争に訴えることはない」という主張が、第一次世界大戦直前にも人気だった。(「えーーーっ」)

「民主政治」「国家主義」「グローバリズム」この3者3すくみ状態のモデルを検証している章が興味深い。

グローバル化で国際競争の圧力が国民にかかるほど、大きな政府が必要になる。グローバル化と福祉国家は表裏一体。しかし不況により政府の財政は緊縮を余儀なくされている。少ないパイの奪い合いがまた社会を緊張させる。特に新興国はグローバリズムにより急激に生活が変化したが福祉はまだ充実していない(世界大戦時の産業後進国だった日本・ドイツ・イタリアと同じ立場)。

グローバル化は、大都市と地方の格差を生む。都市に人口を集中させると災害時や安全保障上リスクが高い。グローバル化+大きな政府のセットは望ましいのか?福祉国家の拡大が家族や共同体の崩壊を招くと言われている。グローバル化をある程度制限し、地域や産業間の格差を是正、共同体を再生するのがよくないか?これは日本だけでなく、世界各国が直面している問題。

国家間の南北問題はグローバル化によって、国内問題に差し替えられた(トッドのいうとおり)。今やどの国もグローバル化により恩恵を受ける側と取り残された側の対立がある(物理学者フリーマン・ダイソンの予測を思い出す r2: フリーマン・ダイソン科学の未来を語る)国内で、あるいは国家間の対立が激しくなると、経済の効率性が社会の安定や公正さを切り捨てるのは難しくなる。

グローバル化は歴史を見る限り、ある時点で反転する。保護主義へと急激に変化せず、ゆるやかに脱グローバル化するのが望ましい。前回の脱グローバル化時には、マルクス主義の影響が強くなった地域もあった。しかし資本主義が終わることはない。低成長下を前提とした経済社会のビジョンが求められる。

それを著者はケインズの「投資の社会化」を拡張させた「社会関係資本」に着目する。共同体の人間関係を資本と考え、治安・福祉・教育を充実させる。自分の時間を友人や共同体のために使い、貨幣ではないリターンを得る。「日本人の行動パターン」(「菊と刀」のルース・ベネディクト著)を読むと、戦前の日本にはそれがあったと思う。日本人の倫理観は、恩・義理・情けなどの貸し借りからなる債務体系をなしているらしい。それが面倒くさくて貨幣経済が発展したとも言えると思うけど。

著者は「来るべき困難な時代にあって、未来を展望するには思想の力が必要」と締めている。

ローレンス・トーブの「3つの原理」を思い出す。日本は今「労働者カースト」の時代で、次に来る「精神・宗教の時代Ⅱ」を迎えつつあるらしい。その精神とは儒教。極東の日本・中国・朝鮮による儒教ブロックができて栄えると。儒教ブロックは大東亜共栄圏と同じ場所をカバー。というもの。

わたしは、今の若い人たち、優秀で有名大学を出た人が、大企業に就職せずNPOやNGOを立ち上げて、思い描く社会の実現に貢献しようとするのを見ると、明らかに世代が違うのを感じる。わたしたちは義務や義理は面倒くさくていやだけど、ボランティアなら喜んでやりたがる。NPOが作ってくれたシステムに古い世代が参加、そのうち、それなしでは社会が動かなくなる、そんな変化ならいいと思うんだけど。

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今日podcastでTBSのdigを聞いていたら、同じことを言っている人がいた。この本を読む時間がない人は、一部だが同様の事がわかる。

Dig | TBS RADIO 954kHz
1月1日(火)「新春座談会」

「新春座談会。新・世界地図」
パーソナリティは、外山惠理と神保哲生
 
■ゲストに元外交官で作家の佐藤優さんと、哲学者で津田塾大准教授・萱野稔人さんをお迎えし、去年、世界のトップが代わったことで、今後、どのように世界の勢力図が変化するのかお話を伺いました。
※ポッドキャストは、ディレクターズカットです。長尺ですが、ぜひお聴き下さい。

1月1日(火)「新春座談会」をポッドキャスティングで聴く

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ところで、久しぶりに「日本人の行動パターン」を読んだら、「キリスト教の精神修養やインドにおける行の目的が、神秘的な体験を経て特別なパワーを獲得することであることに対し、日本人の精神修養は自我を捨てること」という一節に目が留まり、大叔母(シスターT)を思い出した。今月で94歳のカトリックのシスター。先日電話で話したとき「若いときに何もかも神様に預けたはずなのに、この年になっても自分が出てしまうのよ」と嘆いていた。まだまだ修行が続くのか、と大叔母の人生の厳しさに絶句したが、大叔母はキリスト者というよりは禅宗の修行者?武士か?

*このblogに出てくる私の大叔母は二人いて、どちらもカトリック信者でまぎらわしいので、イニシャルを付けました

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